現代のビジネスにおいて、情報のやり取りを安全かつ低コストで行うためのネットワークインフラは欠かせない存在となっています。
企業が拠点間を結ぶネットワークを構築する際、有力な選択肢の一つとして挙げられるのが「エントリーVPN」です。
エントリーVPNは、従来のインターネットVPNと高品質なIP-VPNの中間に位置するサービスとして、多くの企業に採用されています。
本記事では、エントリーVPNの基本的な定義から、その仕組み、導入することで得られる具体的なメリットまでを詳しく解説します。
エントリーVPNとは?基本の定義を解説
エントリーVPNとは、通信事業者の閉域網を利用しながら、アクセス回線に安価なブロードバンド回線を用いるVPNサービスのことです。
一般的に、VPN(Virtual Private Network)は仮想的な専用線を構築する技術を指しますが、その接続方式によってコストやセキュリティレベルが大きく異なります。
エントリーVPNは、コストを抑えつつも、インターネットを経由しない「閉域網」を使用することで高い安全性を確保しているのが最大の特徴です。
「エントリー(Entry)」という名称の通り、高度な専用線やIP-VPNを導入する前段階の企業や、多数の拠点を安価に接続したい企業にとって最適な選択肢となっています。
インターネットVPNとの違い
インターネットVPNは、公衆のインターネット回線を利用して暗号化トンネルを構築する方式です。
誰でもアクセスできる海のようなインターネット上を通るため、常にセキュリティリスクや通信遅延の可能性がつきまといます。
一方でエントリーVPNは、通信事業者が管理する特定の利用者しか入れないネットワークを通るため、第三者からの攻撃を受けにくい構造になっています。
インターネットVPNよりも秘匿性が高く、ビジネス用途に適した安定性を持っていると言えるでしょう。
IP-VPNとの違い
IP-VPNは、通信事業者の閉域網を利用する点ではエントリーVPNと同じですが、アクセス回線に専用線や高品質な帯域保証型回線を使用します。
そのため、通信速度が保証されており非常に安定していますが、月額料金が高額になる傾向があります。
エントリーVPNは、アクセス回線部分に「フレッツ光」などの安価なベストエフォート型回線を採用することで、圧倒的な低コストを実現しています。
セキュリティはIP-VPNと同等でありながら、コストをインターネットVPNに近い水準まで下げたのがエントリーVPNの立ち位置です。
エントリーVPNが機能する仕組み
エントリーVPNの仕組みを理解するためには、アクセス回線と基幹ネットワークの組み合わせに注目する必要があります。
このサービスでは、ユーザーのオフィスから通信事業者の設備(エッジルーター)までの接続に、一般家庭でも使われるブロードバンド回線を使用します。
ユーザー拠点に設置されたVPNルーターが、通信事業者の閉域網(IP-VPN網など)への入り口となるポイントに接続されます。
一度、閉域網に入ってしまえば、その後の通信は他のインターネット利用者の影響を受けないルートで目的地まで運ばれます。
このように、安価な入り口と強固なトンネルを組み合わせることで、効率的なデータ伝送を実現しているのです。
閉域網によるセキュアな通信
閉域網とは、インターネットとは物理的あるいは論理的に隔離された、通信事業者の独自ネットワークです。
エントリーVPNでは、このネットワーク内で「MPLS(Multi-Protocol Label Switching)」などの技術を用いて、契約者ごとに通信を識別・分離しています。
そのため、グローバルIPアドレスを外部に公開する必要がなく、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃の標的になるリスクを劇的に低減できます。
インターネットを経由しないという一点において、セキュリティ強度は一般的なインターネット接続とは一線を画します。
ブロードバンド回線の活用
アクセス回線に光コラボレーションやフレッツ光などの回線を利用できる点が、エントリーVPNの柔軟性を支えています。
これにより、すでにオフィスで利用している回線をそのまま転用したり、安価な新規契約で拠点を増やしたりすることが容易になります。
ただし、これらの回線は帯域が保証されていない「ベストエフォート型」であるため、周囲の利用状況によって速度が変動することは理解しておく必要があります。
それでも、基幹部分が閉域網であるため、全行程がインターネットである接続よりは遥かに安定したスループットが期待できます。
エントリーVPNを導入する主なメリット
企業がネットワークを刷新する際、なぜエントリーVPNが選ばれるのでしょうか。
そこには、コスト・セキュリティ・運用の手軽さという3つの大きなメリットが存在します。
1. 圧倒的なコストパフォーマンス
最も大きなメリットは、高品質な閉域網を驚くほどの低価格で利用できる点にあります。
従来のIP-VPNでは、一拠点あたりのコストが数万円から十数万円かかることも珍しくありませんでした。
エントリーVPNであれば、数千円から一万円程度で構築可能なケースが多く、多拠点展開を行う企業にとっては劇的なコスト削減につながります。
特に、小規模な店舗や支店を全国に展開している企業にとって、このコストメリットは計り知れません。
2. インターネットVPNを上回るセキュリティ
前述の通り、エントリーVPNはインターネットを一切経由せずに拠点間を接続します。
そのため、VPNゲートウェイに対するDDoS攻撃や、パケットの盗聴、改ざんといったリスクを根本から排除できます。
企業が扱う機密情報や個人情報を守る上で、「インターネットから隠れたネットワーク」を利用できることは大きな安心材料となります。
情報漏洩のリスクを最小限に抑えつつ、安価な回線を使いたいというニーズに完璧に応えることができます。
3. 運用・管理の負担軽減
多くのエントリーVPNサービスでは、通信事業者がルーターのレンタルや保守をセットで提供する「マネージドサービス」を展開しています。
これにより、社内に高度なネットワークエンジニアがいなくても、安全な環境を維持し続けることが可能です。
故障時の対応や設定変更も一括で依頼できるため、情報システム部門の工数削減に大きく貢献します。
煩雑なVPN設定から解放されることは、中堅・中小企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
エントリーVPNの比較と選び方
自社に最適なネットワークを選ぶために、各VPN方式の違いを改めて整理しましょう。
| 項目 | インターネットVPN | エントリーVPN | IP-VPN |
|---|---|---|---|
| 利用回線 | 一般インターネット回線 | ブロードバンド回線(閉域接続) | 専用線・帯域保証回線 |
| セキュリティ | 普通(暗号化に依存) | 高い(閉域網を利用) | 非常に高い(閉域網を利用) |
| 通信の安定性 | 低い(ベストエフォート) | 中程度(ベストエフォート) | 高い(帯域保証あり) |
| 導入コスト | 極めて低い | 低い | 高い |
この表からわかるように、エントリーVPNは「安さと安全性」のベストバランスを追求したモデルです。
ミッションクリティカルな基幹システムにはIP-VPN、一般的な業務データのやり取りにはエントリーVPNという使い分けも効果的です。
導入前に知っておくべき注意点
メリットの多いエントリーVPNですが、導入にあたってはいくつか注意すべき点も存在します。
まず、アクセス回線がベストエフォート型であるため、時間帯によって通信速度が低下する可能性がある点です。
大容量の動画ファイルを常に転送したり、リアルタイム性が極めて高いシステムを運用したりする場合には、速度不足を感じるかもしれません。
また、利用できる通信事業者が限定される場合があり、全国の拠点で同じサービスを契約できるか事前にエリア調査が必要です。
さらに、インターネットへのアクセスを別途契約する必要があるか、閉域網から直接インターネットへ抜ける「ゲートウェイ」機能があるかも確認しましょう。
これらの特性を理解した上で設計を行えば、大きなトラブルを防ぐことができます。
エントリーVPNが適している企業のケース
具体的に、どのような企業にエントリーVPNがおすすめなのかを整理しました。
- 店舗や支店が多数ある企業:全拠点に高額なIP-VPNを導入するのは現実的ではありませんが、顧客情報を扱うためセキュリティは妥協できません。
- コストを抑えてネットワークを刷新したい企業:現在のインターネットVPNの不安定さに悩んでおり、少しの予算追加で安定性を高めたい場合に適しています。
- 社内リソースが不足している企業:複雑なVPN設定を自社で行うのが難しく、事業者のサポートを受けながら安全な環境を作りたい企業に最適です。
- リモートワーク環境を強化したい企業:オフィス側のVPN装置を閉域化することで、より強固なアクセス環境を構築するベースとなります。
これらの条件に当てはまる場合、エントリーVPNは最も有力な候補となるはずです。
まとめ
エントリーVPNは、ブロードバンド回線の経済性と閉域網の安全性を兼ね備えた、極めて合理的なネットワークソリューションです。
インターネットVPNでは不安だが、IP-VPNは高価すぎて手が出せないという課題を抱える企業にとって、まさに「救世主」とも言える選択肢となります。
「コスト」「セキュリティ」「運用負荷」の3要素において、バランスの取れたITインフラを構築することは、DXを推進する上での第一歩です。
自社の通信量や予算、求めるセキュリティレベルを改めて精査し、エントリーVPNの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
確かな信頼性と低コストを両立させることで、ビジネスの成長を加速させる強固な基盤を築くことができるでしょう。
