ネットワーク技術が高度化する現代において、物理的なインフラと仮想的なネットワークを切り離して考える手法が一般的になっています。

その中でも、土台となる物理ネットワークを指す「アンダーレイネットワーク」という言葉は、インフラエンジニアにとって避けては通れない重要な概念です。

特にSD-WANやネットワーク仮想化(VXLANなど)を理解するためには、このアンダーレイの役割を正しく把握しておく必要があります。

本記事では、アンダーレイネットワークの基本的な定義から、オーバーレイネットワークとの決定的な違い、そして現代のネットワークにおける具体的な役割について詳しく解説します。

アンダーレイネットワークとは?基本概念を理解する

物理的なネットワーク基盤としての役割

アンダーレイネットワークとは、通信を実現するための物理的なインフラストラクチャそのものを指します。

具体的には、LANケーブルや光ファイバーといった物理配線、それらをつなぐスイッチ、ルーター、ファイアウォールなどのハードウェアデバイスが含まれます。

ネットワークの世界を道路に例えるならば、アンダーレイネットワークは「アスファルトで舗装された道路」そのものと言えるでしょう。

データがどこを通って目的地に届くのか、その物理的な経路を確保することがアンダーレイの最も基本的な役割です。

OSI参照モデルにおける位置付け

アンダーレイネットワークは、OSI参照モデルにおけるレイヤー1(物理層)からレイヤー3(ネットワーク層)を中心とした構成要素で成り立っています。

イーサネット通信を行うためのスイッチング技術や、IPパケットを転送するためのルーティング技術がここに含まれます。

アンダーレイにおける主な目的は、パケットをソース(送信元)からデスティネーション(送信先)へと確実に届けるための「到達性(リーチアビリティ)」を担保することです。

この土台が不安定であれば、その上でどれほど高度な仮想ネットワークを構築しても、通信の品質を維持することはできません。

アンダーレイとオーバーレイの違い

オーバーレイネットワークとは何か

アンダーレイネットワークと対になる概念が「オーバーレイネットワーク」です。

オーバーレイネットワークは、物理的な制約にとらわれず、アンダーレイの上に構築される仮想的なネットワーク論理層を指します。

トンネリング技術(VXLANやNVGRE、GREなど)を用いることで、物理的な接続形態とは異なる論理的なトポロジーを形成することが可能です。

これにより、拠点間がインターネット越しであっても、同一のレイヤー2セグメントであるかのように振る舞わせることができます。

アンダーレイとオーバーレイの比較一覧

両者の違いを明確にするため、以下の表に主な特徴をまとめました。

比較項目アンダーレイネットワークオーバーレイネットワーク
主な役割物理的なパケット転送と到達性の確保論理的なサービスの提供、セグメンテーション
構成要素物理ルーター、物理スイッチ、物理ケーブル仮想スイッチ、トンネルトンネル(VXLAN等)
主なプロトコルBGP, OSPF, IS-IS, EthernetVXLAN, GENEVE, NVGRE, SD-WAN
依存関係単独で動作可能(インフラの基礎)アンダーレイが存在しないと動作不可
柔軟性物理構成の変更が必要で時間がかかるソフトウェア設定のみで即座に変更可能

相互依存の関係性

アンダーレイとオーバーレイは、どちらか一方が優れているというものではなく、相互に補完し合う関係にあります。

オーバーレイは自由度の高いサービスを提供しますが、実際の通信データは必ずアンダーレイの物理機器を通過します。

そのため、アンダーレイ側でパケットロスや遅延が発生すれば、オーバーレイ側の品質も直撃を受けることになります。

堅牢なアンダーレイネットワークこそが、高度なネットワーク仮想化を実現するための絶対条件なのです。

アンダーレイネットワークにおける重要な技術と要件

IPリーチアビリティ(IP到達性)の確保

アンダーレイネットワークにおいて最も重視されるのは、すべての物理ノード間でのIP到達性が完全に確保されていることです。

特に、オーバーレイを構築する際の終端ポイント(VTEPなど)同士が、お互いにIPで通信できなければなりません。

このため、アンダーレイでは非常に安定したルーティングプロトコルが選定されます。

ルーティングプロトコルの選定

大規模なデータセンターやエンタープライズネットワークのアンダーレイでは、主に以下のプロトコルが利用されます。

  • OSPF (Open Shortest Path First): 企業内ネットワークで最も一般的に使われるリンクステート型プロトコルです。
  • BGP (Border Gateway Protocol): 以前はインターネット用でしたが、現在はデータセンター内のアンダーレイ(Leaf-Spine構成など)でも主流となっています。
  • IS-IS (Intermediate System to Intermediate System): 拡張性が高く、キャリア網や大規模データセンターで好まれるプロトコルです。

最近のトレンドとしては、設定の簡素化と拡張性の観点から、アンダーレイにBGPを採用する設計が増えています。

MTU(最大転送単位)への配慮

アンダーレイネットワークの設計において、絶対に見落としてはいけないのがMTU(Maximum Transmission Unit)の設定です。

オーバーレイネットワークでは、元のパケットに新しいヘッダーを付与する「カプセル化」という処理を行います。

これにより、パケット全体のサイズが標準的な1,500バイトを超えてしまうことが一般的です。

アンダーレイ側の機器がこれに対応していないと、パケットの断片化(フラグメンテーション)が発生し、通信パフォーマンスが著しく低下します。

そのため、アンダーレイネットワークではジャンボフレーム(9,000バイトなど)を有効にすることが強く推奨されます。

現代のネットワーク構成におけるアンダーレイのトレンド

Leaf-Spineトポロジーの採用

従来の3階層モデル(コア・アグリゲーション・アクセス)に代わり、現在のアンダーレイ設計では「Leaf-Spine」トポロジーが主流です。

SpineスイッチとLeafスイッチをメッシュ状に接続することで、どのノード間でも一定のホップ数と帯域を確保できる構造になっています。

この構造は、オーバーレイで動的なトラフィックを流す際の土台として非常に優れており、高い拡張性を誇ります。

アンダーレイがシンプルで予測可能な経路を提供することで、上位の仮想ネットワークの安定性が向上します。

SD-WANにおけるアンダーレイ

SD-WAN(Software-Defined WAN)の文脈では、アンダーレイは「インターネット回線」や「MPLS回線」そのものを指します。

複数の異なるアンダーレイ回線を束ね、その上に仮想的なオーバーレイのトンネルを張ることで、トラフィックの最適化を実現します。

例えば、重要なデータは高コストだが品質の良いMPLS回線(アンダーレイ1)を通し、ビデオ会議などは安価なインターネット回線(アンダーレイ2)を通すといった制御が可能です。

ここでは、アンダーレイの品質をリアルタイムで計測し、最適な経路をオーバーレイが選択するという密接な連携が行われています。

アンダーレイネットワークを構築・管理する際の注意点

マルチベンダ環境における互換性

アンダーレイは物理インフラであるため、複数のメーカーの機器が混在することが多々あります。

基本となるプロトコル(BGPやOSPF)は標準化されていますが、細かい実装や独自機能の扱いに注意が必要です。

トラブルシューティングを容易にするためにも、アンダーレイは可能な限りシンプルかつ標準的な構成に保つことが定石とされています。

複雑な制御はオーバーレイ層で行い、アンダーレイは「高速で止まらない土台」に徹することが理想的です。

監視と可視化の重要性

オーバーレイネットワークで通信障害が発生した際、その原因が「論理的な設定ミス」なのか「物理的なアンダーレイの故障」なのかを切り分けるのは容易ではありません。

そのため、物理ポートの状態、光レベル、CPU負荷、ルーティングテーブルの安定性など、アンダーレイ層の徹底的な監視が不可欠です。

SNMPによる監視に加え、最近ではストリーミングテレメトリを用いたリアルタイムな可視化手法も導入されています。

Shell
# アンダーレイの到達性を確認する基本的な例(Cisco IOS風)
Router# show ip route bgp
# BGPによって学習された物理ノード間の経路が表示される
# ここでネクストホップへの到達性がない場合、オーバーレイは成立しない
実行結果
B      10.1.1.0/24 [20/0] via 192.168.12.2, 00:05:21
B      10.1.2.0/24 [20/0] via 192.168.13.3, 00:04:12

まとめ

アンダーレイネットワークは、最新のネットワーク仮想化技術を支える、いわば「縁の下の力持ち」です。

物理的なルーターやスイッチ、そして安定したルーティングプロトコルによって構成されるこの基盤は、データ通信の確実性を保証する役割を担っています。

オーバーレイネットワークが提供する柔軟な機能は、すべてこの強固なアンダーレイの上に成り立っていることを忘れてはいけません。

MTUの適切な設定や、Leaf-Spineトポロジーの採用、そして高度な監視体制を整えることで、トラブルの少ない安定したインフラを構築することが可能になります。

ネットワークエンジニアとして次のステップへ進むためには、このアンダーレイの仕組みを深く理解し、オーバーレイとうまく切り分けて設計・運用する能力が求められるでしょう。

まずは自社のネットワークがどのようなアンダーレイ構成になっているのか、物理的な接続から見直してみることから始めてみてはいかがでしょうか。