在庫管理は、企業の利益に直結する非常に重要な業務の一つです。

効率的な在庫管理を実現するための手法として、多くの企業で採用されているのが「定量発注方式」です。

この方式は、在庫がある一定の基準を下回った際に、あらかじめ決めておいた一定量を発注する仕組みを指します。

運用が比較的シンプルであり、自動化もしやすいため、製造業から小売業まで幅広く活用されています。

本記事では、定量発注方式の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、そして最適な発注量を導き出すための計算式まで詳しく解説します。

定量発注方式とは?在庫管理の基本概念

定量発注方式とは、「在庫が一定の数量まで減ったタイミングで、決められた数量を注文する」という在庫管理の手法です。

この方式において、発注を行うタイミングとなる在庫基準のことを「発注点」と呼びます。

例えば、発注点を100個、発注量を500個と設定している場合、在庫が99個になった瞬間に500個を発注するという流れになります。

定量発注方式の大きな特徴は、発注するタイミングは不定期である一方で、一度に注文する量は常に一定であるという点です。

需要が安定しており、単価が比較的安価な消耗品や部品などの管理に非常に適しています。

また、在庫状況を常に監視していれば、ルールに従って機械的に発注を行うことができるため、属人化を防げるという利点もあります。

定量発注方式の仕組みを支える2つの要素

定量発注方式を適切に運用するためには、2つの重要な要素を決定する必要があります。

1. 発注点(注文を出すタイミング)

発注点とは、在庫がこれ以上減ると品切れになる恐れがあるため、補充を開始すべき基準値のことです。

発注点を設定する際には、発注してから商品が届くまでの期間である「リードタイム」の消費量を考慮しなければなりません。

さらに、予測を超える需要の変動に備えるための「安全在庫」を加味して設定するのが一般的です。

2. 発注量(一度に注文する数量)

発注量とは、一回のリピート注文で手配する固定の数量のことです。

この数量をいくらに設定するかによって、在庫の回転率や保管コスト、発注コストが大きく変動します。

発注量が多すぎれば保管コストが増大し、少なすぎれば発注回数が増えて事務作業の負担が重くなります。

そのため、トータルコストを最小化するための「経済的発注量(EOQ)」を算出することが推奨されます。

定量発注方式と定期発注方式の違い

在庫管理には、定量発注方式と対比される手法として「定期発注方式」が存在します。

これら2つの違いを理解することは、自社に最適な管理手法を選択する上で不可欠です。

比較項目定量発注方式定期発注方式
発注時期在庫が発注点を下回った時(不定期)あらかじめ決めた期日(定期的)
発注量毎回一定その都度算出する(不一定)
主な対象品需要が安定しているもの、安価なもの需要変動が大きいもの、高価なもの
管理の手間比較的少ない(自動化しやすい)多い(需要予測と計算が必要)

定量発注方式は「いつ注文するかは分からないが、量は決まっている」という仕組みです。

対して定期発注方式は「注文する日は決まっているが、量はその時の状況次第」という仕組みになります。

定期発注方式は精密な需要予測が必要となるため、管理コストが高くなる傾向にあります。

一方で定量発注方式は、システムによる自動発注との相性が良く、運用負荷を低く抑えられるのが特徴です。

定量発注方式のメリット

定量発注方式を採用することで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。

事務作業の効率化と自動化

定量発注方式の最大のメリットは、発注業務の標準化が可能になることです。

発注点と発注量が固定されているため、在庫データを管理システムと連携させれば、人間が判断することなく自動で発注書を作成できます。

これにより、発注担当者の心理的負担や、入力ミスといったヒューマンエラーを大幅に削減できます。

在庫過不足の抑制

発注点を適切に設定していれば、在庫が枯渇する前に必ず補充がかかります。

また、一度に発注する量が決まっているため、極端に在庫が膨れ上がるリスクも低減できます。

常に一定の在庫レベルを維持しやすいため、倉庫スペースの有効活用にも繋がります。

管理コストの低減

高度な需要予測アルゴリズムを必要としないため、システム導入や運用のコストを安く抑えることができます。

特にABC分析において、比較的単価が低く重要度が中程度の「Bクラス」や、低単価で大量に消費される「Cクラス」の品目に適用することで、高い費用対効果を発揮します。

定量発注方式のデメリットと注意点

多くのメリットがある定量発注方式ですが、万能ではありません。

運用上の弱点も把握しておく必要があります。

急激な需要変動に弱い

定量発注方式は、一定の需要があることを前提としています。

季節変動が激しい商品や、突然のブームで需要が急増する場合、発注点に到達してから商品が届くまでの間に在庫が尽きてしまうリスクがあります。

このようなケースでは、安全在庫を多めに設定するか、定期発注方式への切り替えを検討しなければなりません。

発注量の柔軟性が低い

一度発注量を固定してしまうと、状況に合わせて細かく調整することが難しくなります。

例えば、仕入れ先がキャンペーンを行っており、まとめて買えば安くなるような状況でも、機械的に固定量で発注してしまい、コスト削減の機会を逃す可能性があります。

また、発注のタイミングがバラバラになるため、複数の品目をまとめて発注して配送料を節約するといった工夫がしにくい側面もあります。

定量発注方式の重要指標と計算式

定量発注方式を成功させる鍵は、数値に基づいた正確な設定にあります。

ここでは、実務で使われる主要な計算式を紹介します。

経済的発注量(EOQ)の算出

経済的発注量とは、発注コストと在庫保持コストの合計を最小にする発注量のことです。

以下の計算式で求めることができます。

text
EOQ = √ ( (2 × 年間需要量 × 1回あたりの発注費用) / 1個あたりの年間在庫保持費用 )

この式を用いることで、頻繁に注文しすぎて事務コストがかさむ状態や、逆に大量に買いすぎて保管料が高くなる状態を防ぐことができます。

発注点の算出

発注点は、欠品を防ぐための最前線となる数値です。

基本となる計算式は以下の通りです。

発注点 = (1日あたりの平均需要量 × 調達リードタイム) + 安全在庫

例えば、1日に10個売れる商品があり、注文から届くまで5日かかる場合、最低でも50個の在庫が必要です。

ここに、配送の遅延や需要のブレを考慮した「安全在庫」を加えたものが最終的な発注点となります。

安全在庫の算出

安全在庫は、不確実性に備えるための予備の在庫です。

計算式はやや複雑になりますが、統計的なアプローチを用いるのが一般的です。

text
安全在庫 = 安全係数(サービス率) × 需要の標準偏差 × √リードタイム

安全係数は、どの程度の確率で欠品を防ぎたいか(サービス率)によって決まります。

一般的には95%のサービス率を目指す場合、「1.65」という係数がよく用いられます。

定量発注方式を導入する際の実務ステップ

実際に定量発注方式を導入する際の手順を確認しましょう。

ステップ1:対象品目の選定

まずは、自社が扱っているすべての在庫をリストアップし、ABC分析を行います。

重要度が高く、需要予測を緻密に行うべき「Aクラス」の品目ではなく、需要が比較的安定している「Bクラス」や「Cクラス」の品目から定量発注方式を適用するのが定石です。

ステップ2:現状データの収集

過去の販売実績や出庫データから、1日あたりの平均需要量と標準偏差を算出します。

また、仕入れ先へのヒアリングを行い、正確なリードタイムを把握することも不可欠です。

ステップ3:発注点と発注量の設定

先ほど紹介した計算式を用いて、論理的な発注点と発注量を設定します。

このとき、現場の意見も取り入れつつ、倉庫の保管キャパシティを超えないか確認してください。

ステップ4:運用のモニタリングと微調整

運用を開始した後は、定期的に欠品率や過剰在庫の状態をチェックします。

市場環境の変化により需要パターンが変わった場合は、速やかに発注点の設定を見直す柔軟性が必要です。

定量発注方式を支えるITテクノロジー

現代の在庫管理において、Excelなどの手作業だけで定量発注方式を運用するのは限界があります。

特に商品数が多い場合、リアルタイムの在庫把握と自動発注を可能にするITツールの導入が不可欠です。

ERPや在庫管理システム

ERP(基幹系業務システム)やWMS(倉庫管理システム)には、多くの場合、定量発注の機能が標準搭載されています。

入出荷データが入力されるたびに理論在庫が更新され、発注点を下回った際にシステムが自動的にアラートを出したり、仕入れ先へ発注データを送信したりします。

IoTによる在庫監視

最近では、重量センサーを活用したスマートマットなどのIoT機器も注目されています。

棚に置かれた商品の重さを検知し、一定の重量を下回ると自動で発注を行う仕組みです。

これは、バーコードのスキャン漏れなどの入力を介さないため、より正確な実在庫ベースの定量発注を実現します。

まとめ

定量発注方式は、在庫管理を効率化し、企業の生産性を向上させるための非常に強力な手法です。

発注点と発注量を適切に設定することで、管理業務の負担を軽減しつつ、欠品リスクを最小限に抑えることができます。

しかし、需要変動が激しい品目には不向きであるといった特性も理解しておく必要があります。

まずは自社の在庫データを分析し、どの品目に定量発注方式を適用するのが最適かを見極めることから始めてみてはいかがでしょうか。

正しい理論に基づいた在庫管理の仕組みを構築することが、企業の持続的な成長を支える基盤となるはずです。